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サケ資源変動に関する検討(中間報告)〜平成20年のサケ来遊数の減少をどのように考えるか?〜

当センターでは,平成20年度の日本系サケ来遊数の減少を受け,その減少要因の解明と,今後のふ化放流事業の対応策の検討に取り組んできた。まず,5月27日に水産総合研究センター内のさけます担当部門と海洋環境担当部門,北海道と岩手県の試験研究機関,および北海道大学が情報交換を行い,今後の検討方向を整理するための協議を行った。その結果,来遊数の減少は北海道の平成16年級群の減耗が大きく影響したことが明らかとなった。その後,関係機関によって集められた放流から回帰に至る広範な海域の環境データとサケ回帰率との関係を分析した結果,いくつかの要因が明らかになった。これらに基づき,サケ来遊数の安定化に向けたふ化放流方法等について検討したので,現時点までの結果について中間報告する。

このページに掲載した内容は、平成21(2009)年8月4日FRA本部プレスリリース サケ資源変動に関する検討について〜減少要因と今後の対応策の中間報告をとりまとめ〜 でも掲載しています。

目次


1.平成20年度サケ来遊状況(来遊数の減少と不順)の現状分析

全国の来遊数は5,297万尾を示し,平成6年以後の平均来遊数に対する比率(以下,「平年比」と記す)では79%に減少した(図1)。しかし,放流数がほぼ一定(約18億尾)で推移した過去15年において,来遊数が6,000万尾を下回る年は5回存在することから,昨年の来遊減は中期的な資源変動の一部と考えられる。
図1 サケ沿岸来遊数の推移(全国)
 

1.1 北海道

北海道全体の来遊数は3,871万尾を示し,平年比76%に減少した(図2)。
図2 サケ沿岸来遊数の推移(北海道計)

また,来遊群の中でも,4歳魚(平成16年級)の減少が顕著であった(図3)。
図3 サケ4,5歳魚の来遊数の平年比

さらに,4歳魚(平成16年級)の中でも,前期群(9月来遊群)の落ち込みが大きかった(図4)。
図4 サケ4歳魚の時期別来遊数平年比

海区別の来遊数平年比は,低い順から日本海区 34%,根室海区60%,オホーツク海区82%,えりも以東海区99%,えりも以西海区100%を示した(図5)。日本海区の減少率が著しいが,その資源水準は約300万尾と低いため,日本系サケ全体の来遊数への影響は限定的であると考えられる。これに対し,資源が高水準(約1,500万尾)にある根室およびオホーツク海区の落ち込みが,日本系サケ全体の来遊数の減少に繋がったとみなされた。
図5 サケ来遊数の推移(区域別)

1.2 本州

本州太平洋区域の来遊数は1,364万尾で,平年比88%に減少した(図5)。しかし,この地区では平成11年以降資源が低水準にあり,対前年比では94%と落ち込みは少なかった。また,この区域では漁期の遅延および漁場の南偏という来遊不順(漁場形成の変化)が観察されたが,これは沖合に形成された暖水塊によりサケの接岸が妨げられたことに起因する可能性が高い(図6)。
図6 本州太平洋における来遊不順要因

本州日本海区域の来遊数は60万尾で,平年比75%に減少した(図5)。しかし,この資源水準は,H16-18年の一時的な資源増加期間を除けば,以前と同程度であるとみなされる。また,この地区の資源水準は約80万尾と著しく低く,日本系サケ資源全体への影響はほとんどないと考える。

1.3 まとめ

平成20年度の日本系サケ資源の減少は,北海道において4歳魚として回帰した平成16年級(特に前期群)の減耗が大きかったことに起因する。なお,本州太平洋区域では,大きな資源減少はなかったものの,回帰時の高水温により来遊不順が認められた。

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2.来遊減少要因の検討

ここでは,平成20年度の日本系サケ資源の減少の主要因となった,北海道の平成16年級群について解析した。まず始めに,これまでにサケ資源の減少要因として指摘されている以下の3項目について検討した。

1)ふ化放流魚の質,数の問題
2)降海直後の沿岸での減耗
3)沖合域での初回越冬期(北西太平洋)における減耗

次に,今回の検討を通じて明らかとなった,

4)母川回帰年の海洋環境による影響

についても解析を試みた。

2.1 北海道

1)ふ化放流魚の質と数の問題

北海道における平成16年級の放流稚魚の海水適応試験(3.3%,48h後)の結果,生残率は各海区とも平均90%以上と高かったことから,種苗性の問題はなかったと考えられる(図7)。また,放流数も近年約10億尾の一定水準で推移しており,資源減少の要因とはなっていない。
図7 サケ放流魚の海水適応試験結果(北海道)

2)降海直後の沿岸での減耗

オホーツク沿岸では放流時期(5月)の平均水温と4歳魚までの回帰率に正の相関関係が認められた(図8)。この理由として,降海直後の低水温により分布好適海域が限定され,生残に悪影響を与えた可能性が考えられる。平成16年級群の放流時期(平成17年春期)の水温(網走沿岸の5月平均)は,3.3℃を示し,平年より1.3℃低かった。この低水温がH16年級の早期に放流される群(前期群)の減耗につながったと推定される。
図8 沿岸水温と回帰率の関係

3)沖合域での初回越冬期での減耗

降海後の沖合域では,餌生物が少なくなる越冬期の減耗が大きいと考えられている。日本系サケは,北西太平洋で最初の越冬をする。この海域の水温が高い場合に生残率が低くなる傾向が,資源変動モデルを利用した相関分析の結果から示された(図9)。 この現象は,餌生物が少ない環境において,高水温により代謝が上昇することで,飢餓や餌競合のリスクが高まることに起因すると想定される。
図9 沖合の水温と回帰との相関分析結果

平成17年12月の当該海域における水温は平年に比べて約1〜2℃高く,初回越冬期での減耗を高めた可能性がある(図10)。
図10 平成17年12月の表面海水温

4)母川回帰年の海洋環境による影響

5月のベーリング海における水温が高い場合,回帰率が上昇する現象が認められた(図11)。この理由として,低水温が回帰直前の索餌回遊に不利に働くことが想定される。平成20年5月の当該海域の水温は3.6℃を示し,平年と比べ若干低かったことが,回帰率を低下させた可能性がある。
図11 回帰率と5月ベーリング海水温との関係

千島列島周辺のサケ回帰回遊ルートの9月の水温が高い場合,北海道系サケの回帰率が低下する現象が認められた(図12)。この理由として,高水温により回帰回遊が阻害されたことが推察される。平成20年9月の当該海域の水温は17.3℃(平年比2.2℃高)と平成6年以降では最も高く,回帰率低下の一因となった可能性が示唆された。
図12 回帰率と回帰経路の水温との関係

2.2 結論

北海道における平成16年級の資源減少に関し,

1)降海直後の沿岸域における低水温
2)初回越冬期の北西太平洋における高水温
3)回帰年5月のベーリング海における低水温
4)回帰年9月の千島列島周辺における高水温

が減耗要因となった可能性が高い。また,前期群で減少が大きかったことには,要因1および4の影響が大きいと考えられた。

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3.サケ来遊数の安定化に向けての提言

今回の検討を通じて,サケ資源の変動には沿岸から沖合まで,すなわち生活史全般にわたる生息域の海洋環境が関与していることが示唆された。サケの回帰を安定化するためには,サケの生息域が常に好適な環境に保たれることが重要であるが,沖合域においてそれを管理することは不可能である。しかし,沿岸環境を迅速に把握し,海況変化に対応した適期放流を実施することは,我々の努力で実現可能である。そこで,今後の対応策として以下のとおり提言する。

3.1 海況異変に対応するための連携体制の構築

広域的な沿岸海域及び放流河川地先の水温データをリアルタイムに収集し,放流時期の調整に必要な海況情報を民間増殖団体等へ迅速に提供するなど,海況異変に対応するための連携体制の構築を図る。(図13)。
図13 海況異変に対応するための連携体制(案)

そのため,水産総合研究センターは,放流時期におけるモニタリング調査の結果(沿岸の表面水温,プランクトン湿重量,稚魚の分布状況等)や沿岸水温観測結果を速報として公表するとともに,太平洋と日本海における海況予測結果を公表する(例えば,図14)。また,気象庁等他機関の公開データや漁業関係者からの地先情報を収集し,海況情報の充実に努める。
図14 さけますセンターHP『春の沿岸環境速報』

3.2 沿岸海況変化に対応した放流方法の検討の必要性

基本的には,年により変動する沿岸の海況や前浜の水温情報に応じて,放流時期をコントロールする。但し,放流時期の調整にあたっては,ふ化場の飼育能力を考慮する必要がある。

ふ化場の飼育能力の制約を受け,放流時期を沿岸の海況に適合させることが出来ない場合は,特定の時期の来遊数が大幅に減少する危険を回避するために「リスク分散型放流」を検討する必要がある。例えば,異常低温により放流適期が例年より遅くなった場合,これまでは放流サイズに達した稚魚から順に放流していたため,前期群が大きく減少する結果を招いたと考えられる(図15)。これに対し,リスク分散型放流では,各採卵群の放流時期に幅を持たせることにより特定の群の大幅な減少を回避することを目指している。
図15 リスク分散型放流のイメージ

今後,水産総合研究センターとしては,道県や民間増殖団体からの技術支援等の要望に応えるべく,ここで示した提言の具体的な実施体制や方法について,関係機関と連携を図りながら,来春の放流に間に合うよう検討を進める。

カウンター 2009年8月5日より

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