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2004 NPAFC 公開市民講座

2004 NPAFC公開市民講座
サケは海からの贈り物

−海洋生態系におけるさけ・ます類の保全と利用−

Pacific Salmon, a Gift from the Sea
How can we conserve salmon in the ocean ecosystems and make their better use?

 サケ(サケ属魚類)は,人類にとって重要な資源であり,海洋を広く回遊して母川に回帰し,産卵して一生を終える生活史はまさに神秘的です.
 このたび,第12回北太平洋溯河性魚類委員会 (NPAFC) 年次会議が札幌市で開催されるにあたり,国内外で活躍される研究者を招き公開市民講座を開催します.
 市民講座では,海洋の生態系におけるさけ・ます類資源の現状と将来を皆さまに少しでも知っていただくため,NPAFCの役割,国際的研究活動,サケの回遊と生活史,増殖と資源管理などを紹介いたします.
 同時に,サケに関わる伝統文化,市民とのふれあい,最新の研究成果などを紹介する合同パネル展も開催いたしますので,お気軽にご来場ください。

  • 日時:2004年10月23日(土曜日)13:30〜17:00 (パネル展は10月23〜24日)
  • 会場:札幌コンベンションセンター
  • 主催:北太平洋溯河性魚類委員会(NPAFC),水産庁,(独)水産総合研究センター,(独)さけ・ます資源管理センター
  • 協賛:千歳サケのふるさと館,札幌市豊平川さけ科学館,北海道東海大学
  • 後援:北海道,札幌市,(財)札幌国際プラザ,(社)北海道さけ・ます増殖事業協会,北海道漁業協同組合連合会,北海道秋鮭普及協議会
こちらからリーフレットをダウンロードできます.
リーフレット表面サムネール表面
JPEG版 73KB
PDF版 360KB 
リーフレット裏面サムネール裏面
JPEG版 87KB
PDF版 639KB

プログラム

[講演会]10月23日13時30分〜17時

  • 13:00-13:30 はじめに−NPAFCの活動紹介など Loh-Lee Low (NPAFC科学調査統計小委員会議長)
  • 13:30-13:50 サケの大回遊−母川回帰の謎 上田 宏 (北海道大学北方生物圏フィールド科学センター教授)
  • 13:50-14:20 サケの海洋生活−気候変動との関係を探る Dick Beamish (カナダ太平洋生物研究所)
  • 14:20-14:40 休憩
  • 14:40-15:00 サケを守る−生態系保全と持続的資源管理 帰山雅秀 (北海道東海大学工学部教授)
  • 15:00-15:20 サケの有効利用−再生産,漁業と食品 真山 紘 (さけ・ます資源管理センター調査研究課長)
  • 15:20-15:50 サケとのふれあい−レクリエーション,教育とボランティア活動 Gerry Kristianson (NPAFCカナダ政府代表)
  • 15:50-16:30 質問コーナー

司会:浮 永久 (北海道区水産研究所所長)
通訳:Taka Crowston

[合同パネル展]10月23日10時〜18時,24日10時〜16時

  • 豊平川におけるサケと市民の交流
     札幌市豊平川さけ科学館
  • サケと伝統文化
     千歳サケのふるさと館
  • 研究成果や増殖事業の紹介
     水産総合研究センター,北海道立水産孵化場,さけ・ます資源管理センター
  • 食料としてのサケの多彩な利用
     北海道漁業協同組合連合会,北海道秋鮭普及協議会

講演要旨

はじめに
Welcome and Introduction (Loh-Lee Low, CSRS Chairman, USA)
ローリー・ロウ (NPAFC科学調査統計小委員会議長)

NPAFC公開市民講座「サケは海からの贈り物」にご参加いただいた方々,札幌市民の皆様に,ご挨拶いたします.海からの贈り物であるサケは,生物学的にも経済的にも重要な資源で,太古の昔から人間と密接に関係を保ち続けており,私はこの不思議な魚を心から崇拝しています.この市民講座では,内陸の川から海に下り,長い旅を重ね,地図もなしに生まれ故郷の川に戻って産卵し,悲しく死んでゆくサケの神秘的な生活史について,第一線の研究者たちがお話しします.増殖や適切な資源管理によるサケ資源の持続的保全についても耳を傾けてみましょう.サケが,すぐれた食品で健康に役立ち,スポーツ・フィッシングとしてレクリエーション的にも価値があり,人々に自然に親しむ機会を与えてくれるなどといったテーマについても触れます.サケはほんとに不思議な魚で,あまり知られていませんが,6年にも満たない短い一生の間に,いくつもの苦難を乗り越えるのです.スライドをお見せしながら,海からの贈り物である不思議なサケを賛美し,自作の詩を朗読します.リラックスしてサケの物語をお楽しみください. 

サケの大回遊−母川回帰の謎
Salmon migration in the ocean and mystery of homing (Hiroshi Ueda, Hokkaido Univ.)
上田 宏 (北海道大学北方生物圏フィールド科学センター教授)

春に生まれた川(母川)を下って冷たい北の海で餌を求めて数千キロにもわたる大回遊をしたサケが,数年後の秋の産卵期に繁殖のため80%以上の精度で母川を識別して回帰し,子孫を残して死んでゆく姿は感動的です。サケがどのように母川を記憶して回帰するかを,北洋を回遊するシロザケを用いて,数多くの共同研究者とともに行動・生殖・感覚生理学的に解析しています。今回は最近解ってきた母川回帰の謎の答えをお話します。 ベーリング海で日本系のシロザケに超小型記録計(マイクロデータロガー)を装着して,北海道沿岸までの2,760kmにわたる67日間の遊泳水深・水温・速度を解析しました。シロザケは42〜47km/日のスピードで,昼間は水深15〜36m付近への索餌行動と考えられる潜水行動を繰り返し行い,夜間は表層を北海道に向かってナビゲーション(航路決定)して回帰することが示唆されました。 サケは繁殖のため母川回帰するので,脳―下垂体―生殖腺系ホルモンがサケの母川回帰行動を制御していると考えられています。脳(嗅球・終脳・視索前野)から分泌されるサケ型生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン,下垂体から分泌される生殖腺刺激ホルモン,生殖腺から分泌されるステロイドホルモンの分泌動態がベーリング海から千歳川の孵化場までの産卵回遊に伴い変化することが明らかになってきました。これらのホルモンの分泌動態が感覚機能にどのように影響を及ぼしているかは非常に興味深いです。 母川沿岸まで回帰したサケが,数多くの河川から母川を選択するには嗅覚が重要であることは1950年代から提唱されてきましたが,母川のどのようなニオイを識別しているかは長い間不明でした。長流川に回帰した雄シロザケを用いて,長流川のアミノ酸組成を分析してY字水路における選択行動実験を行ったところ,84%の個体が人工アミノ酸長流川河川水を選択しました。 地球的規模における環境および食料問題が,人類の生存を脅かしています。サケの母川回帰には,河川・沿岸・海洋環境の保全が必須であり,体重1gで母川を降海したシロザケ稚魚は数年後に3〜4kgの親魚となり母川に回帰する重要な食料資源であり,サケは河川から海洋に流出した栄養塩を河川に還元してくれる数少ない物質循環の担い手です。今後も微力ながらサケの母川回帰機構を解明することにより,地球環境と食料問題に解決に貢献してゆきたいと考えております。

サケの海洋生活−気候変動との関係を探る
Ocean life of Pacific salmon and climate changes (Dick Beamish, Pacific Biological Station, Canada)
デック・ビーミッシュ (カナダ太平洋生物研究所)

サケは淡水の川と海洋の両方で生活しますが,この様なことが出来るのは,地球上の生き物でもごく一部に限られています.サケは淡水に戻って産卵しますが,それは淡水域が,卵のふ化や稚魚の成長に安全な場所だからです.サケの稚魚が海に泳ぎ出る理由は,川よりも海の方がたくさんの餌があるからです.広大な海洋の生育場が,川に留まるよりも遙かに多くのサケを維持しているのです.サケの資源量は,気候変動に連動して増えたり減ったりすることが解ってきました.従って,サケの資源状態は,海や淡水の状態と同様に,気候と密接に関係しているのです.サケは,過去100万年の間に起きた気候変動に適応して,ゆっくりと進化してきました.残念ながら,サケがどのように気候変動に適応しているのかは解りません.いま,我々人類は,大気中に大量の二酸化炭素を排出し,温室効果により気候変動に深刻な影響を与えています.最近の気候変動は,サケが適応できるよりも早い速度で起きているかもしれません.我々は,サケが海で生き残れる方法を早く見つけなければなりません. 

サケを守る−生態系保全と持続的資源管理
Sustainable salmon management in the ocean ecosystems (Masahide Kaeriyama, Hokkaido Tokai Univ.)
帰山雅秀 (北海道東海大学工学部教授)

サケ(サケ属魚類)の生活史をみると,成長のよい大型の個体ほど淡水域に残り,成長の劣る小型個体は産卵域から追い出され,降海します。しかし,降海したサケは数年後りっぱに成長して産卵のために母川へ回帰します。母川回帰したサケは,一回繁殖といって産卵後はすべての個体が死にます。実は,北方圏生態系ではこのサケが河川湖沼はもとより河畔林を含む生態系の生物多様性と,陸上から消失した栄養塩を再び海洋から運搬する物質循環の役割を担っていいます。 生物は何百万年という時間をかけて進化してきた歴史をもつ自然の遺産であり,その集合体が生態系です。複雑な生物間の相互作用こそが生物多様性をつくりだすもとになり,その相互作用が幾重にも重なり合いながら,安定した多様な生態系が形成されます。現在,人類がこの地球生態系のドミナントに位置していますが,長い時間をかけて形成された生態系は人類の「一時」の活動によって著しい影響を受けます。 ここでは,サケに関する@生態系の生物多様性と物質循環,A野生魚と孵化場魚の生物学的相互作用,B環境収容力と個体群密度効果について紹介し,C生態系保全の重要性をお話ししたいと思います。

サケの有効利用−再生産,漁業と食品
Better use of salmon: enhancement, fisheries and food (Hiroshi Mayama, National Salmon resources Center)
真山 紘 (さけ・ます資源管理センター調査研究課長)

周囲を海に囲まれた日本では魚類が重要な動物タンパク質資源だったことから,種々の漁法が発達し,多様な利用方法に基づく食文化が育まれてきました。北日本の魚類を代表するさけ・ます類は河川で産卵することから,単に沿岸域だけでなく川の上流域まで広く馴染み深い魚として君臨してきました。 河川規模が小さく,流域が高度に土地利用されてきた日本の川でおいて,さけ・ます類の資源を維持し漁獲量を増やすため,再生産の場を人為的に管理する人工ふ化放流の技術が米国から導入されました。100年余りの歴史を経て現在では大量に回帰させることに成功しています。その成功の秘密について考えてみます。 日本の沿岸では,主に定置網という決められた場所で待ち受ける漁法により,産卵のために回遊中のさけ・ます類を捕らえます。産卵のために母川に戻る回遊路と回遊時期が毎年ほぼ一定であることから,定置網の操業場所や期間をコントロールすることによりきめ細かな資源管理が可能となっています。 秋から初冬にかけて河川に遡上するサケは,塩蔵,塩干,くん煙することにより長期保存され,古くから貴重な越冬食糧の一つでした。また,捨てるところがないと言われるほど,魚体の各部位が多種多様な食品として無駄なく利用されてきました。その食文化の一端を紹介します。

サケとのふれあい−レクリエーション,教育とボランティア活動
Close Touch with Salmon: recreation, education and volunteer activity (Gerry Kristianson, Canadian Representative for NPAFC)
ジェリー・クルスチャンソン(NPAFCカナダ政府代表)

サケは,北米太平洋沿岸の人々にとって象徴的な生き物です.彼らは人間と生息環境を結びつける重要なシンポルなのです.北米の先住民族たちは,食料として,また世代交代,忍耐および自己犠牲の力強いシンボルとしてサケを崇めたのです.近代になり沿岸に移り住んだ移殖者たちも同じことをしてきました. サケは漁業資源として経済的に重要ですが,サケのスポーツ・フィシングも,経済的に漁業と匹敵するほどになってきました.北米では,毎年,数十万もの人たちがサケ釣りを楽しんでいます.サケは,見ても綺麗ですし,捕まえるのも楽しいし,食べてもおいしい理想的な魚なのです.産卵場に回帰するサケを見るだけのために,もっと多くの人たちが遠方からやって来ます.「サーモン・ツーリズム」は,経済的にも社会的にも重要になってきました. サケの重要性は,我々の教育システムにも反映されるようになってきました.学校の子供たちは,サケの生活を勉強し,次世代のサケが自然環境に帰る手助けをすることによって,知らないうちに環境教育を受けます.加えて,さまざまな経歴を持った大人たちが,たくさんのサケが帰ってこれるように,生息環境を良好に保つため,長い時間ボランティア活動を行っています.私たち北太平洋沿岸の地域社会は,サケと身近にふれ合うことによって,このすばらしい生き物が,今後も我々の環境で生き残るための手助けをできます.