平成13年度さけ・ます資源管理連絡会議の概要 |
連絡会議の概要
中期計画の概要等について独立行政法人制度の概要1 独立行政法人とは
2 独立行政法人制度の基本
独立行政法人さけ・ます資源管理センター1 設立
2 さけ・ます資源管理センターの目的等
センターの中期計画概要(平成13-17年度)1 業務運営の効率化に関する目標を達成するためにとるべき措置
2 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達成するためにとるべき措置
3〜7 予算、施設整備計画、人事に関する計画等(略)近年のサケ資源の来遊状況についてサケの母川回帰、産卵は我が国でも古くから知られており、江戸時代中期に新潟県の三面川(創始は18世紀中半)や山形県の月光川(創始は19世紀初頭)では種川制として天然産卵の保護が図られていた。道内では明治12年以降徳川家から移民が行われた道南地方の遊楽部川に端を発している。サケの孵化法を日本に初めて紹介したのは、明治6年にウイーンで開催された万国博覧会に派遣された関沢明清である。彼は欧州に普及していたマスの孵化法に感銘し、明治9年に茨城県の那珂川、明治10年に札幌の偕楽園で孵化試験を実施し、本格的には明治21年に石狩川支流の千歳川に官営の千歳中央孵化場(現さけ・ます資源管理センター千歳支所)が建設されてからである。 その後、我が国の孵化放流事業は益々普及・発展し(その歴史的経緯については当センターのHPを参照されたい)、現在年間放流数約20億尾、回帰尾数約4400万尾(H12)に達している。 今回の発表では、こうした長い歴史の蓄積の結果として今ある本邦系サケ資源の適正な評価と管理を目指して当センターが実施しているデータベースの構築とその活用について近年の来遊動向を含めて報告するとともに、今後の来遊動向についての推定結果を紹介する。 1.データベースの構築当センターは札幌に本所を置く他、道内6カ所に支所を配し、さらに各支所は管轄エリア内に複数の事業所を有する組織体制を取りデータ収集に努めている。その内容は、沿岸漁獲尾数、河川捕獲尾数及び採卵数、年齢組成、標識親魚、遺伝形質、繁殖形質等である。これらのデータベースは出来る限り速やかに公表すべく、HP、報告書、技術情報誌、研報、会議等を通して提供されている。 2.データベースの活用例沿岸漁獲データベース(旬別・漁協別沿岸漁獲尾数)を用いて解析した北海道及び本州を含む太平洋沿岸での漁場重心の時空間的推移について報告する。また、近年実施した親魚の標識放流試験について、その移動距離、移動速度、移動方向などの結果を放流実施位置ごとに紹介する。漁場重心位置の解析結果および標識放流試験結果ともその動線図は必ずしも一方向的ではない点で一致していた。 3.来遊状況と地域間の比較本邦系全体でみると、サケ来遊数は1970年以降単調な増加傾向にあった。しかし、平成に入った頃から1990年及び1996年を極大、その間の1992年を極小とするような大きな変動傾向を呈するようになり、昨年は再び極小期を示した。また、年級群豊度は隣接する地域間で類似した傾向を示し、各地域区に来遊する年級群豊度は放流された稚魚が日本沿岸を離岸するまでの比較的早期に決まる可能性が示唆された。 4.各種推定方法サケは早いもので2年魚から回帰を始める。従って低年齢魚の来遊数からその後の来遊数を推定する方法が一般的に試みられている。ところが、近年では8年を経過して回帰産卵するなど回帰魚の高齢化が進み本方法での推定値と実績に大きな差が生じるようになった。そこで、回帰数と体サイズやカラフトマス豊度とサケ豊度に観察される相関性あるいは年級群毎の回帰率の変動幅に見い出される周期性などに着目して推定を試みた。 5.総括いずれの方法によっても本年度の本邦系サケの来遊数は総じて昨年を上回ることが推察された。既存のデータベースに加え、資源変動に影響を及ぼすと考えられる生物・物理的環境要素に関わるデータの蓄積を質・量ともに今後さらに充実させることにより、本邦系サケ資源の適正な評価及び管理に貢献できるものと考える。 [参考資料 さけ・ますふ化放流について平成12年度のふ化放流の実施状況について我が国では、本邦系サケ・マス類の漁業資源造成と資源維持管理を図るため,溯河性サケ・マス類のうち,サケ・サクラマス・カラフトマス・ベニザケの4魚種を対象に計画的な人工ふ化放流が行われている.昭和50年代後半以降,毎年20億尾のサケ・マス幼稚魚が放流され,その結果平成12年度は,サケでは44百万尾,カラフトマスでは14百万尾が日本沿岸に回帰した. 現在,さけ・ます資源管理センターでは,サケ・マス資源の解析,適正な管理を行うことを目的に,ふ化放流事業を行っている北海道と本州北部(青森〜茨城、青森〜石川)の11道県の協力により,ふ化放流および回帰資源に関する各種データを収集し,データベース化を行っている.今回は,各道県から提供されたデータに基づき,平成12年度のふ化放流の概要について報告する.
ここでは放流数等の結果に限った報告であるが,各地域のふ化放流状況に基づき放流効果を検討することは,ふ化放流技術の向上のために重要であり,そのためには放流時期や放流サイズのほか,健苗性や沿岸域の環境等の様々な角度からのデータを収集・分析していくことが必要と考える. [参考資料 増殖効率化モデル事業(中間報告)について1 事業の目的サケ稚魚の放流は、発育段階と沿岸環境に配慮して行うことが重要であり、適正な時期に適正なサイズで放流することにより、高い回帰効果を得られると推測される。したがって、サケの回帰率が、稚魚の放流時期と放流サイズの違いにより、どの程度変化するかを調べることで、少ない放流数で回帰資源の維持を図るための増殖効率化モデル事業を行った。 2 方法1996年級から2000年級の5年級について、北海道の12河川において放流時期とサイズの異なる2群の稚魚に標識を施し放流した。2群の標識魚の放流数は、それぞれほぼ同数とした。河川に回帰した標識魚の確認は、1996年級が3年魚で回帰する1999年から開始した。 3 結果河川に回帰して確認された標識魚は1999年に114尾、2000年(平成12年)に3,146尾の合計3,260尾であった。これらは1996年級群の3、4年魚、1997年級群の2、3年魚、 1998年級群の2年魚である。 4年魚まで回帰した1996年級群について、放流時の平均体重と沿岸水温の条件から、1)沿岸水温5℃以上で1.0gと1.5g以上で放流された群のパターン(4組)、2)沿岸水温5℃以上で1.1gと1.3gで放流された群のパターン(1組)、3)沿岸水温5℃以下で0.7gで放流された群と、沿岸水温5℃以上で1.1g以上で放流された群のパターン(7組)に区分して比較した。確認数は、1)のすべてで大型群(1.5g以上)が小型群(1.0g)よりも多かった。また、2)の放流時の平均体重が1.1gと1.3gとその差が小さい組では、2群間の標識魚確認数の差は小さかった。3)では7組中4組で大型群(1.1g以上)の方が小型群よりも確認数は多かった。 4 今後の計画河川内での確認調査は2005年まで継続することになっており、回帰率を含め、最終取りまとめはすべての結果を得てから行われる。 サケ幼稚魚の沿岸滞泳期における近年の沿岸環境の概況さけ・ますの回帰資源量が,海洋生活初期の環境に大きく影響されると考えられていることから,沿岸滞泳期の環境を把握することは資源量の予測や放流技術の改善を図るために重要である.さけ・ます資源管理センターでは,平成7年(1995年)から北海道における沿岸環境の長期的変動と,サケ幼稚魚の生態の把握を目的として,全道14カ所で継続的なモニタリング調査を実施している. 本報告では,1995年から2000年までに公表された "Salmon Database 初期生活史データ" を使用し,沿岸環境,動物プランクトンの動態,サケ幼稚魚の分布について述べる. 1.北海道沿岸の水温の時期的変動北海道沿岸における1998年の春から初夏(3〜7月)にかけて時期の推移に伴って水温は上昇する.日平均水温の変動は上ノ国,標津で大きく-2〜3℃の間で変動したのに対し,他の定点での変動幅は-1〜1℃と小さかった.沿岸では特定の風向時に湧昇が起き,水温の低下が見られる場合があり,北海道沿岸の水温観測定点でも特定の風向が卓越した日に水温の低下が見られた. 2.表面水温の違いによる動物プランクトンの湿重量の変動1996年から2000年までの5カ年間の北海道沿岸での動物プランクトンの湿重量は,日本海で最も少なく,オホーツク海は最も多かった.動物プランクトンの湿重量はいずれの海域でも表面水温5〜8℃で多く,8℃以上では減少した. 3.サケ幼稚魚の採捕尾数の年変動北海道沿岸で1995年から2000年までの6年間に二艘曳き網で採捕されたサケの年間の操業回数に対する平均採捕尾数は,1996年春が12.6尾と最も少なく,次いで1995年の38.8尾であった.また,もっとも多かったのは2000年の374.9尾であった. カラフトマスの採捕された操業回数に対する平均採捕尾数は,1996年春が7.2尾と最も少なく,次いで1995年の7.9尾で,もっとも多かったのは1997年の66.9尾であった. 4.サケ幼稚魚の最大尾叉長の時期および採捕時の表面水温の違いによる変動1995年から2000年までの6カ年間で採捕されたサケ幼魚の最大尾叉長は,石川県,北海道日本海およびオホーツク海沿岸では最大でも140 mmを超えなかったのに対し,岩手県および北海道太平洋沿岸の採捕群の最大尾叉長は190 mmを超えた.サケ幼魚の最大尾叉長は,石川県,岩手県および北海道の各沿岸とも表面水温7〜12℃でピークを形成した. 130 mm以上の大型魚の採捕時期は,石川県沿岸で3月〜4月中旬であったのに対し,北海道日本海沿岸およびオホーツク海沿岸では5月下旬〜6月上旬と1ヶ月半以上遅かった.太平洋沿岸での採捕時期は,岩手県沿岸では5月中〜下旬と短期間であったのに対し,北海道の太平洋沿岸は5月中旬〜7月上旬と長期に及んだものの,両海域での採捕時期は一部重複した. さけ・ますの系群保全近年,地球規模で保全の必要性が指摘されている生物多様性は,『遺伝的多様性』,『種多様性』,『生態系多様性』,および『景観(生態系の集まり)多様性』の4レベルの生物階層より成る概念である.生物多様性保全の実際的な目標は,『種を絶滅させない』ことであるが,種を絶滅させないためには,4つの階層すべてで種をとらえ保全する必要がある.ここでは生物多様性の基礎をなす遺伝的多様性の保全(=系群保全)の基本的考え方について話題提供する. 生物種は遺伝的に均一ではなく,例えば人間の瞳や毛髪の色,鼻の高さなどに見られるように,同一種内でも個体間に遺伝的な違いに起因する多様性がみられる.魚類も例外ではなく,その遺伝的多様性は哺乳類よりも高いと考えられてる.特に,さけ・ます類は強い母川回帰性(産卵のため生まれた川に帰る性質)をもつことから,遺伝的に異なった地域あるいは河川集団を形成し,それぞれの集団は,地域環境に適応した遺伝的特性(例えば産卵時期や降海時期など)を備えている.また各集団内の個体間にも高いレベルの遺伝的変異がみられる.つまり,さけ・ます類は,(1)各集団間の遺伝的違いと,(2)集団内に保有する遺伝的変異,により種内の多様性を高度に維持していると考えられる. これら遺伝的多様性は,生物進化の源となるものであり,地球温暖化などによる生息環境の変化や新たに持ち込まれた病原生物に対する適応性を高めるなど,種が存続するために必須のものと考えられる.また,増殖事業を行う上では,地域環境に適応した「地場」の魚を増殖することが最も効率的で理に適っている.国際的な常識となった多様性保全を視野において,漁業資源を持続的に維持するため,個々のさけ・ます類集団が本来持つ遺伝的固有性や変異性の保全に配慮した秩序ある増殖事業を行う必要がある. 日本産さけ・ます類の中で,特にサケやカラフトマスは多くが人工増殖により再生産されている.この増殖技術により毎年多くのさけ・ます類が回帰し,沿岸漁業に大きく貢献している.しかし,人工増殖事業の長い歴史の中で,『減少した資源を増やすため』に遠く離れた河川間でさけ・ます類の移殖放流が行われた時期もあった.前述の通り,さけ・ます類は河川あるいは地方毎に分化しているので,異なる地域に由来する個体を放流すれば,在来集団特有の遺伝的多様性を失うことにつながる. サケの遺伝資源を維持管理する方法は以下の通りである.
このガイドラインに従い,さけ・ます資源管理センターでは,現在残っている地域集団を特定する遺伝調査を行い,これらの地域集団を保全するために,遺伝的に異なる集団間での移殖放流は行わないことにした.また,地域集団を代表する多様性保全河川集団を選出し,他河川集団からの移入は行わず,ふ化場で人工受精を行う際には,人為的選択を避け,なるべく多くの親魚を使うことにより多様性の減少を防ぐように努力している.さらに,主要な河川集団の生物モニタリングを毎年行い,回帰親魚の年齢構成や体サイズ,遺伝的固有性や変異性などの変化を監視している. さけ・ます類は,食料資源として産業的に重要であるのに加え,遊魚や観光あるいは自然教育素材としても注目を集めている.豊かな自然生態系の中で,さけ・ます類資源を持続的に維持しながら有効利用するため,多様性の保全に配慮したふ化放流を行うと共に,河川生息環境を改善して在来魚の自然産卵を助長するなど総合的な保全策を模索する必要がある. 耳石温度標識の現状と今後の展開さけ・ます資源管理センターでは,さけ・ます類の地域集団別の回遊経路と成長および生残など系群特性を明らかにするため,当センター放流魚を識別できるように飼育魚の全数標識を目指している.1998年級から大量標識法として耳石温度標識を採用した.耳石温度標識法とは,発眼卵期や仔魚期の飼育水温を規則的に変化させ,頭部にある耳石にバーコードのような明瞭な濃淡を持つ印を施す手法である.この濃淡の本数と間隔を変えることで,北海道では2000年級のサケに9種類の標識パタン(計1,820万尾)を施し,カラフトマスに2種類のパタン(計220万尾)を施して,それぞれ2001年春期に放流した.北米及びロシアにおいても,耳石温度標識は沿岸漁獲魚などのふ化場起源の推定及び天然魚との識別の目的で,1990年代前半から大量に実施しており,2000年の放流尾数は約11億尾だった.標識は一生を通じて有効なため,放流後から回帰親魚の漁獲に至るまであらゆる段階でふ化場魚の系群識別手法として活用されている. 耳石温度標識の仕組み温度標識は飼育水温の規則的な変化のみで導入できる.そのため他の標識法のように魚に触れたり薬品を使用したりする必要がない.また,水温の変動は自然環境で起こりうる現象なので温度標識は無害であると考えられている. 温度標識の導入は,ほぼ一定の水温が保たれる湧水を使用する時期において,飼育水温を急激に低下させ低温を保つと,その間に耳石に形成される黒色のリング(温度リング)を利用する.ここで,水温を戻すと透明な耳石が形成される.これを繰り返すことにより,耳石の成長に従ってバーコードのような黒白が並ぶ標識リング(複数の核から外側に成長する同心円の組み合わせ)を施すことができる.日本においては,通常の飼育水より4℃冷却した飼育水に24時間さらし,後に24時間通常飼育水温に戻す組み合わせを基本とし,標識パタンを増やすため半分の12時間同士の組み合わせを併用している(図1).異なる多くの標識パタンを作成するため,それぞれ複数回繰り返している.なお,黒色リングは水温変動の大きいふ化場や野生魚においても,環境の変動で生じることが想定される.そのため標識に用いるパタンは,これらノイズと区別できるようにリングを規則的に並べている. 耳石標識の分析手順は,@頭部を解剖し耳石を摘出,A耳石を核が現れるまで研磨,B顕微鏡(100〜400倍,透過光)で標識の確認という段階を経る. 図1.耳石標識(伊茶仁1999年級サケ) 耳石標識放流の現状北米及びロシアにおいて耳石温度標識は,野生魚と各ふ化場魚を識別する安価な大量標識法として1990年代前半から本格化した.我が国においてはふ化場起源(と一部の放流群)を識別することを目的として,1998年級群のサケ403.44万尾を千歳事業所で標識したのが始めであった.また初年度は,温度標識の回帰への影響を検証するため,温度標識魚15万尾と同一採卵月日の通常飼育魚15万尾に同一部位の鰭切除標識を施し,回帰親魚における比較試験を設定した.1999年以降に水温制御装置を設置した施設は,静内事業所と伊茶仁事業所,徳志別事業所であり,他に標識時に発眼卵を収容して敷生事業所と薫別事業所のサケにも標識を施した(図2).またカラフトマス耳石標識を1999年級(伊茶仁事業所)から開始したほか,サクラマス耳石標識を2001年級(千歳事業所)から開始する(図3).さらに本州においては,2001年級群から岩手県片岸川ふ化場でサケ500万尾を標識放流する(図2). 標識魚の分布と移動を推定するため,北海道沿岸,オホーツク海,北太平洋,ベーリング海で得られた幼稚魚・未成魚の耳石分析を行っている.例えば,2000年4-6月にえりも以西海区敷生川河口沿岸に分布する幼稚魚の1.3-10.3%は,敷生川と静内川に放流された耳石標識魚であった.静内放流群が,静内沿岸付近で想定される回遊経路(襟裳岬へ向かう南東方向)とは逆方向である90km西方の対岸でいずれの時期に再捕されたことから,放流直後のサケ幼稚魚は広範囲に分散することがわかった. 2001年秋期には1998年級千歳サケ3年魚と1999年級伊茶仁カラフトマスの回帰が見込まれる.回帰親魚の分布・移動・混入率を推定するため,サケではオホ−ツク及び日本海区の沿岸の5産地市場で各月1回×3ヶ月,石狩川の捕獲場で旬1回×10旬の耳石標本を分析する.またカラフトマスでは斜里及び根室海区の沿岸の4産地市場で1回,伊茶仁川の捕獲場では採卵盛期1回の耳石標本を分析する. 図2.事業所別サケ耳石標識魚放流数 図3.耳石標識魚放流数(日本) 今後の展開さけ・ます資源管理センターでは,資源管理に供する基礎的知見を得るため,当センター放流魚を識別できるように飼育魚の全数標識を目指している(図3). 標識パタンは国際会議(NPAFC)において近隣の地域と重複が起こらないように調整を行っている.アジア側の日本とロシアでは,標識パタンの開始を2本(日本)と3〜6本(ロシア)として,その後に各ふ化場を識別するパタンを挿入している.日本の多くのふ化場では,水温制御が可能な時期は発眼卵期までに限られるため,標識パタンを導入できる期間が短く,多くのふ化場(北海道-センター計10箇所,本州-3箇所程度)で飼育されるサケに各1パタン程度しか割り当てられない.各ふ化場放流魚の詳細な生態学的知見を得るためには,ふ化場毎に複数の標識(例えば採卵時期毎や実験群毎など)を与えれば効率的に評価できる.標識パタンを増やすには,標識可能期間を伸ばすか,異なる標識法の二重標識が考えられる.前者は,@飼育管理の見直し(紛らわしい黒色リングが付いてしまう淘汰・検卵の時期を前倒しする;効果は小さいが現状から変更点も少ない),A仔魚期にも標識を施す(飼育水の使用方法の見直し;効果大きいが施設に手を加える必要があるかもしれない)の2点が上げられる.後者は,二重標識として北米で使用が検討されているストロンチウム標識(仔魚期以降の飼育水または餌に混ぜることにより耳石に取り込ませる;検出に電子顕微鏡が必要)の導入が挙げられる.今後これらの方法についても検討する必要があるだろう. |